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確率過程とランダムウォーク

(著)山たー

本当は測度論から説明すべきなのでしょうが、ざっくりとしたことを書きます。

 

確率過程

 普通の確率変数は時間に依りません。例えばサイコロを振る時、1がでる確率は2秒後と5秒後と10秒後で変わりません。また、1回目に振ったときと2回目に振ったときで1が出る確率が変化するということもありません。一方、今回お話する確率過程では何を考えるのかというと、時刻によって変化する確率変数(確率分布)を考えます。

 

時間的に変化する現象の、時点$t$での確率変数を$X_t$とします。 この、時点$t$をパラメータとする確率変数の列(集合)$\{X_t\}$を確率過程 と呼びます。 確率過程には事象の起こった回数によって変化する過程(離散時間型, $t\in \mathbb{N}$) と、 時刻によって変化する過程(連続時間型, $t\in \mathbb{R}$)の2種類あります。

ランダムウォーク

確率過程の簡単な例としてランダムウォークを考えましょう。数直線上にある粒子を確率 $p$ で右に$1$、確率 $1-p$ で左に$-1$動かします。これを繰り返すと、粒子は次のアニメーションのように動きます。

 

このような粒子の動きをランダムウォーク(random walk, 日本語では酔歩など)と言います。 酔っぱらいの人の千鳥足の動きに似ているのでこのように呼ばれています。 もし、酔っぱらいの動きを再現しようとするなら、酔っぱらいでもある程度前には進もうとするので、$p\neq 0.5$となるでしょう。

 

ランダムウォークによる粒子の移動を、縦軸を位置、横軸を時間としたグラフで表すと次のようになります。

かなりフラフラ動いていることが分かります。

 

ランダムウォークを数式で表してみましょう。初期位置を$S_0$とし、動き方についての確率変数を$X_t=\{-1,1\}$とします。ただし、 \begin{align*} P(X_t=1)&=p\\ P(X_t=-1)&=1-p \end{align*} とします。このとき、時刻$n$における粒子の位置$S_n$は $$ S_n=S_0+S_1+\cdots+S_{n-1}+S_n=\sum_{t=0}^n S_t $$ と表せます。これを連続時間型にしたもの(時間幅を無限小にして、 動き方を$X_t \in[-1,1]$とし、$X_t\in \mathbb{R}$としたもの)をブラウン運動と言います。

ブラウン運動

ブラウン運動は水の中の粒子の運動として知られます。もともとは水中の花粉の動きとして発見されました。実際には水分子の衝突によって粒子は動いているのですが、モデルを簡略化して粒子自体がランダムに動いていると見ることもできます。

 

なお、ブラウン運動が水分子によるものであるということを示したのはアインシュタインです。当時(1905年)、分子が実際にあるかどうか確認できていませんでしたが、この発見により分子の実在が示せたということです。

 

ランダムウォークの高次元への拡張

さきほどの1次元のランダムウォークを2次元平面上に拡張すると、次のようになります。 

 

3次元空間に拡張すると次のようになります。

 

ブラウン運動を用いたシミュレーションの例を他に見たい方は、拡散律速凝集を参照してください。

 

ランダムウォークとマルコフ性

  将来の状態が過去に依らず、現在の状態のみによるという性質を マルコフ性 (Markov property)と呼びます。 つまり、時刻 $n$ における確率変数は、時刻 $n-1$ の確率変数にのみ依存し、それ以前の $t\lt n-1$ の状態には影響されないという性質です。 時刻$t$における状態を表す確率変数を$X_t$とし、任意の状態を$j, i, i_{n-1},\cdots,i_0$とすると、マルコフ性は、条件付き確率を用いて $$ P(X_{n+1}=j|X_n=i, X_{n-1}=i_{n-1},\cdots,X_0=i_0)=P(X_{n+1}=j|X_n=i) $$ と表せます。この場合、$X_{n+1}$は$X_{n-1},\cdots,X_0$とは独立です。 ランダムウォークの粒子の位置にはマルコフ性があり、粒子の位置$S_n$は直前の位置$S_{n-1}$のみに影響されます。ただし、粒子の動き方$X_n$にマルコフ性はありません。このようにマルコフ性を持つ確率過程をマルコフ過程と呼びます。

(注)マルコフ性の正しい定義は、
確率過程において、時刻$t+1$における状態の確率変数(確率分布)$X_{t+1}$が直前の$n$個の状態 $$ X_{t},X_{t-1},\cdots,X_{t-n+1} $$ によって決まる場合、マルコフ性があるという
であり、このような性質を持つ確率過程をマルコフ過程、特に$n$重マルコフ過程といい、$n=1$のときを単純マルコフ過程といいます。しかし、多くの場合$n=1$の場合を考えるので、単に「マルコフ過程」と呼ぶときは$n=1$の場合が多いです。

参考文献

・R.デュレット,2012,『確率過程の基礎』,丸善出版

・武田 一哉,2010,『新インターユニバーシティ 確率と確率過程』,オーム社

https://en.wikipedia.org/wiki/Random_walk
http://natureofcode.com/book/introduction/

 

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コメント: 1
  • #1

    Hiratadoc (水曜日, 07 7月 2021 08:49)

    とても分かりやすくて素晴らしい。“いいね”しますね